なぜバランススコアカードは使われなくなったのか
古のビジネスフレームワーク(?)であるバランススコアカード(Balanced Scorecards)。
日本でも2000年代には勢いがあったものの、近年導入している企業はほぼ皆無(要出典)。使われなくなったのにも何か理由があるはずです。
ということで、ごく簡単にですがバランススコアカード(以下BSCと呼ぶ)が使われなくなった理由をまとめていきます。
先人の意見
「バランススコアカード 使えない」などのキーワードで検索してヒットした記事からポイントだけ引用します。なお、太字部分は私が編集したものです。
BSCをいわゆる“箱モノ”と捉えてシステム系のツールと同様に現場に任せて導入してしまえば、ある程度のことは進むだろうという安易な企業がいらっしゃるようです。新しいやり方を取り入れるということは、組織に変化を促すということですから、経営トップおよび幹部クラスの方々には相応の覚悟を持って進めなければなりません。そういう覚悟ができないから、とりあえずBSCという“箱モノ”に頼ろうと考えているのであれば本末転倒と言わざるを得ません。
(中略)
BSCは会社全体の戦略マップ作成の後に、各部門ごとのBSC、個人別のBSCと落とし込んでいくことが重要だと言われています。確かにそれは間違いではありません。しかしながら、会社全体のBSCはこうなっているから後は各部門で考えておくように、といった落とし込み方では、せっかくのトップダウンからいきなりボトムアップ的な展開に変わってしまいます。
BSCは単なるツールではなくビジネスシステムであるため、本来的にはトップダウンで導入・定着化が必要です。しかし、実態としては現場任せになってしまい、結果的に導入・定着化がうまくいかずに失敗するケースが多かったようです。
BSCは日本企業の経営に非常に役立つツールだと実感しています。私が特に効果を感じるのは、「1.企業に対する戦略性の付与」、「2.部門横断の計画検討」、「3.目標の明確化」の3つです。
(中略)
「戦略マップも見せてください」というと、「いえ、当社は戦略マップ(筆者注:重要成功要因の因果関係を示したもの)を策定していないのです」という答えが返ってくることもあります。戦略マップ無しでは、BSCの効果「3.目標の明確化」には資することになりますが、「1.戦略性の付与」、「2.部門横断の計画検討」には役立ちません。
本来、BSCの4つの視点の重要成功要因(CSF)・KPIがそれぞれ因果関係を構成しストーリーができている必要がありますが、その検討が不十分で単なるKPIの集合になってしまうというわけです。
『ストーリーとしての競争戦略』でも主張されているように、良い戦略には「これがここにつながって、それがこっちにつながって...」という筋の通ったストーリーが存在します。言い換えると、ストーリーなき目標(KPI)の羅列は戦略になり得ないため、戦略マップがないというのは戦略がないのと同じです。
達成目標の選択と集中ができていない
目標達成のためのシナリオ不在
シナリオへの合意とコミットメントが不充分
PDCAサイクルを回すための仕組みが無い
「シナリオ不在」は一つ前での指摘と同様で、コミットメントとPDCAサイクルの話は二つ前の指摘と同様です。
たった三つの記事だけで結論を出すのはかなり早計ですが、BSCが失敗する理由は①導入・定着化に伴うトップのコミットメントが弱いことと②ストーリー性のある戦略的なCSF/KPI定義ができていないことにまとめられそうです。
使われなくなった理由というのはまさに失敗した(する)からでしょうね。
個人的に思うこと
別の概念(たとえばアジャイルとか)でもまったく同じのように思いますが、どうやら日本では新しい概念を「なんか良さそうな"ツール"があるからこれでなんかやってみて!!」と、ツール扱い&現場任せで導入することが多いようです。
そのような扱いのせいで、本質的な部分に触れないまま「なんかイマイチだったね」と捨て去られるわけです。今回の件でもBSCは悪くないはず!
別にBSCにこだわらなくてもいいのですが、BSCのように目標を多角的な観点で組み立てる考え方は非常に有効に思えます。ちなみにBSCの場合は財務、顧客、ビジネスプロセス、学習と成長の四つの観点ですね*1。
個人的な思いとして、先日ツイートした通り、特定のKPIに執着し全体像が見えなくなることは結構危険だと思っています。
財務指標・業務指標でKPIツリーを作ってそれをベースに施策を考えるのは個人的にあまり好きではない。顧客目線で思考することが疎かになりそうなので。
— まつ@SIer (@wannko5296) November 11, 2020
具体的に言うと、たとえばWebマーケティングにおけるKPI至上主義によって、マーケティングの根幹でもある顧客理解・人間理解が疎かになることが非常に危険だと感じます。
そのようなことにならないためにも、多角的にCSF/KPIを定め、それらの因果関係を理解しながら自らのKPIをモニタリングできるような仕組みづくりが重要になりそうですね。
おわり。