Matsu Blog

マーケティング、事業開発、統計学をテーマに何かしらを書き留めていきます

SNSにおける承認欲求に関する論文メモ

SNSにおける承認欲求に関する論文で興味深かった内容をいくつか書き留めておきます。

なぜわれわれは SNS に依存するのか?─ SNS に“ハマる”心理─

出所はこちら。
http://repo.kyoto-wu.ac.jp/dspace/bitstream/11173/3029/1/0140_014_012.pdf

周りから浮いてしまうことを嫌う日本人的な気質を持ってい る人たちにとっては、いかにも自意識過剰な“自 撮り”写真をあげるのではなく、周囲の人たちか ら目を付けられないような“ほどよい自己表現” にうまく収めることができるというのも SNS の 特徴である。(p.165)

インスタ映えという言葉が死語となったのも、過度な非日常の演出や実態を超えた表現に対する嫌悪感から、若者がナチュラルな自己表現を好むようになったからであると言われています(要出典)。SNSにおいても周りの目を気にした行動をとるというのは実に日本人的ですね。

周りの人た ちに自分が受け入れられたいと望む承認欲求には、 「ひとにすごいと思われたい」とか「羨ましがら れたい」というような他者から肯定的な評価を得 ようとする賞賛獲得欲求と「イケてない奴だと思 われたくない」とか「周りの人に嫌われたくない」 などのような否定的な評価を避けようとする拒否 回避欲求の側面がある(p.165)

なるほど。承認欲求というと前者(賞賛獲得欲求)を想起していましたが、後者の側面もあるんですね。人間の損失回避性はなかなか興味深いです。

基本的に日常の断片的な 切り取りをした自己開示なので、リアルで継続的 な人間関係とは違い、比較的自己コントロールが 簡単なのである。リアルな人間関係では露呈しが ちな自分の嫌の部分を隠しておくこともできる。 だから自分に対する評価を維持しやすい。(p.165)

これはSNSにハマる理由に関する記述です。ある意味ではこれも自分の嫌な部分を開示することにより生じる損失の回避とも言えそうですね。

ここで注目すべきは、SNS の依存傾 向が高い人の「できるだけ相手の機嫌を損ねたく ない」、「できるだけ敵は作りたくない」、「友だち と分かりあおうとして、少しくらい傷ついても構 わないとは思わない」という特徴である。これら は前項で指摘した「拒否回避」的な特徴そのもの である。SNS 依存の心理的特徴の本質のひとつに、 深くて密な人間関係を持つことに回避的であり、 周囲から疎外されることへの恐怖から、より無難 な距離を保とうとする人間関係を求める心性があ ると言える。(p.166)

興味深い内容です。日本の若者はなぜそんなにも疎外や損失を恐れるのでしょうか...。

承認欲求についての心理学的考察 ─現代の若者と SNS との関連から─

後から気づきましたが、1つ目の資料の著者と同じでした。

出所はこちらです。
http://repo.kyoto-wu.ac.jp/dspace/bitstream/11173/2640/1/0140_012_002.pdf

岡田(1999)は、親密で自己開示を積極的 にするような友人関係の特徴を「内面的関 係」と呼び、一方でその対をなす関係で、そ のときどきの表層的な楽しさや心地よさを追 求する群れ的で同調的な関係を「表面的関 係」としている。齊藤・藤井(2009)は、大 学生を対象にした調査で、他者からの拒否を 回避したり怖れたりする心性が、この同調的 な「表面的関係」を促進することを明らかに している。(p.29)

 

今の若者や大学生 が「内面的関係」を持ちえないと言っている のではない。むしろこの「内面的関係」を求 めているように見える。しかし身近な友達に そのつながりを求めて、もし拒否されてし まったらどうしようという不安が強いために、 自分からわざわざ「恥ずかしい」思いをする ような内面の告白をするのを避けて、結果表 面的な付き合いに留めておくということを選 んでいるようだ。(中略)。どちらかという と相手を喜ばせることよりも、相手を傷つけ ない気遣いが重視されているようである。(p.30)

1つ目の論文と同様の内容ですが、自分自身が傷つきたくないから他者に対しても損失回避を意識したやさしさが(積極的なやさしさよりも)重視されているという点は非常におもしろいですね。

表面的関係を日常的にあまりに意識するが故に、そのはけ口としてSNS(特に、俗にいう裏アカ)がよく使われているのかもしれません。

「今の若者や大学生が(中略)『内面的関係』を求めているように思える」という主張の根拠は不明ですが、表面的関係に対する相対的な内面的関係の貴重性は高まるため、このニーズに対する何らかのアプローチができるとよさそうです。

今あるほとんどのSNSが表面的関係の構築・維持のために使われているとするならば、内面的関係の構築を後押しするようなSNS(別にSNSにこだわらなくてもいいけど)が出てくるとおもしろいかもしれませんね。