Matsu Blog

マーケティング、事業開発、統計学をテーマに何かしらを書き留めていきます

慶應通信で社会人大学生していた頃の話

4年間の(社会人)大学生活が終わってもう一年経つ。記憶が残っているうちに自分の経験を残しておきたいと思い、この記事を書くことにした。

特に有益なことは書き留めるつもりはないが、慶應通信慶應義塾大学 通信教育課程)を検討している人や在学中の人にとって何か参考になることがあるかもしれない。

ちなみに、今ちょうど来年度の出願受付中みたいです。 www.tsushin.keio.ac.jp

あなたは誰

SIerシステムインテグレーター)に勤めるごく普通の20代半ばの男。

両親が高卒ということもあって大学に行くという選択肢が頭に浮かばず(言い訳)、当時興味のあったプログラミングを学ぶために高専に行くことにした。その後、上述のSIerに入社し現在に至る。

なぜ大学に入ろうと思ったか

新入社員1年目の研修を受けていたある日、全社宛にあるメールが届いた。

内容は海外での研修プログラムだった。そのときはグローバルにも関心があったので興味津々で読み進めていったが、条件をよく見るとそこには「大卒以上」の文字がある。 何ともいえないもやもやを感じた。

学歴がないだけで挑戦できる機会が限られてしまうなんて...、この時そう思ったことが大学入学を目指すきっかけとなった。 (ちなみにこの出来事以降、学歴によって不利になるようなシーンにはまったく遭遇していない。その意味でも奇跡的な出来事だった)

なぜ慶應通信

ネットで通信制の大学について調べ、放送大学や法政大学など幅広い選択肢があることを知った。慶應の通信では経済学と商学部の両方の科目を履修できると知り、商学は実務とリンクする部分が多いのではないかと思って慶應通信を選んだ。

出願

あまり覚えていないが小論文を書いて提出した気がする。

どういう選考基準がまったく分からないんだか不安だったが、論文・レポートの書き方に関する書籍を見ながら自分なり書き上げた。無事に合格し、嬉しそうにTwitterに投稿した記憶がある。

レポートと試験

履修の仕組みはいろいろあるが、基本的には科目ごとに指定されたテキストで学習したうえでレポートを作成し提出、そのうえで試験会場で試験を受けるという流れだった。レポートと科目試験、両方とも合格水準に達すると単位が取得できる。

レポートを書くときは毎回、何を書いていいか分からず無駄に時間をかけ、時間だけが過ぎていって締め切りが近くなって無理矢理書き切るというのが常であった。夏休みの宿題を最後の1週間でやるタイプだったからまあそうなる。時間をかけた分、自分の書いた文章に不思議と愛着が湧き、レポートを印刷するたびにあたかも小説を書き上げたかのような気持ちになったことが印象深い。

肝心の成績はぼちぼちだった。あまりよくはない。必修科目はC(ギリギリ合格)が多く、それ以外は普通くらい。一方でレポートは比較的順調に合格をもらっていた記憶がある。再提出になったのは数回ほど。レポートの問いとストーリーを考えるのには結構時間を使っていたのでそのおかげだと思う。

ちなみに、履修実績としてはこんな感じだった。西洋史、金融論でだいぶ苦しんだことがうかがえる。(成績も公表してよかったんだけど3月中に成績照会できなくなっていたので記録が残っていない) f:id:wannko5296:20210222103105p:plain

卒業論文での失敗

卒業論文はだいぶ遠回りをした。

はじめに卒論の指導を受ける際、取り組みたい内容を何百文字かでまとめて提出しなければならないのだが、それを知ったのが締め切りの数日前だった。当時関心のあった投資対効果についてレポートを書きたいと思ってとりあえず書いたが、担当の教授から「データは手に入るの?難しいんじゃない?」と言われ、自分のアホさに気づいた。その場でテーマを変更することになり、その教授の得意領域であった株価の変動要因の分析をするという話でまとまった。

しかし... なかなか手が進まない。モチベーションが湧かなかった。そのまま半年か1年経ち、このままではお互い(教授と私)損をすると判断し、論文のテーマを変更したいと教授に申し出た。

結局、フリマアプリにおける購買要因の分析をテーマにすることになった。データを収集するために Python でWebクローリングのスクリプトを書き、手動で毎日実行していた記憶がある(なぜか自動化しなかった)。ある程度関心のあるテーマだったため隙間時間を使ってデータ分析、論文執筆を進め、無事に書き上げることができた。

自分自身が本当に明らかにしたいと考える問いを日頃の生活や先行研究の中から見つけ出すことが特に重要だと思う。ガソリンもなく走ることはできない。モチベーションもないのに手間も時間もかかる論文執筆を仕事をしながら進めるなんてバカらしくなる。

学業との両立

喉元過ぎれば何とやらと言うが今となってはそこまで大変だった記憶はない(が、書き始めていろいろ大変だった記憶が蘇ってきた)。通勤が電車・バスだったのでその時間でテキストを読むようにしていた(だいたい途中で寝落ちする)。

常に脳内が慶應通信のことばかりだった。仕事中の隙間時間もそうだし、仕事が終わってからも大学のこと、土日もそうだ。脳内の領域がほとんど占領されていた。

卒業した後は、仕事で興味関心を持ったものを終業後や休みの日に調べたり実践したりとスキルアップの時間をとることができているが、在学中はそんな余裕がなかった。本来、一番力を入れるべき仕事にコミットできなかった。仕事を通した学習・成長機会を自ら捨てたようなもので、これは本当にもったいなかったと今でも思っている。

あと、妻にも迷惑をかけた。「私と大学どっちが大事なの!?(意訳)」と言われたこともある。それぐらい余裕がなかった。

モチベーションの維持

やめようかと思ったことはあまりなかったと思う。実際何らかの理由で自ら退く人も多く、それに対して何か言うつもりはまったくないが、私は、私自身が途中であきらめることはあり得なかった。あまりにダサすぎる(私自身に対してだから誤解しないでね)。

逆に言うと、理由はどうであれ絶対に卒業してやるという思いがなければ、続けるのはなかなか難しいと思う。自分のか処分時間をすり減らして学業に取り組む必要があるわけで、思いが中途半端だと「なんで私こんなことやってるんだろう」と感じてしまうのも仕方ない。

卒業試験

話は飛んで最後の難関、卒業試験まで進む。

自分の取り組んできたことを自分の言葉で説明できれば大失敗することはないだろうと考えていたので、不安はあったがそこまでではなかった。

はじめに副査の先生が入ってきてご挨拶。非常に優しそうな感じの方で一安心。しかし待てど暮らせど指導教授(主査)が来ない。雑談を交え、フライングで論文の説明が始まった。しばらくして「いやーすみません」と教授が来て改めて説明開始。その後の質疑応答もかなり和やかなムードで、本当に雑談をしてるかのような雰囲気で審査は終わった。質問も真面目に取り組んでいれば答えられるような内容ばかりでさほど難しいものはなかった。

その後、無事に卒業通知が届いた。文字数めちゃくちゃ少なかったんだが本当によかったんだろうか。 f:id:wannko5296:20210222103142p:plain

慶應通信での思い出

夏期スクーリング一択である。毎年8月になると日吉・三田キャンパスに学生が集まり授業を受ける。毎日17時過ぎに授業が終わると近くにあるHUBで何時間も飲んでいた記憶がある。普段友人と飲みに行ったりすることもないので、自分の中ではかなり特別感があった。その1,2週間で年間に摂取するアルコールの9割くらいは摂取していたと思う。

自分とはまったく違うバックグラウンドでまったく違う将来像を描いている人たちと話すこともなかなかないのでかなり新鮮だった。今思い返すと懐かしい。 いろいろあったなあ。

慶應通信で学んでよかったと思うこと

文章を書くことが少し得意になった気がする。 またレポートや論文のストーリーの立て方も身についたと思う。これらは実務の中でも大いに役立っていると感じている。

専門的な領域では、統計学(正確に言うと卒論で取り組んだ部分)に関する知識が実務と重なり、非常に助かった記憶がある。入学当時からそういう業務を行なっていたわけではなかったが、卒業する1年ほど前頃から携わることになり、 体系的な知識が求められる状況において即座に実践に当てはめて対応できた。

何より良かったと思うのは、学習習慣が身についたこと。仕事や育児以外の可処分時間を使って仕事のことや自分の関心あることについて知識を習得したり何かをアウトプットしたりすることが自然にできるようになった

今後

卒業後は大学院(通信)への入学を検討していたが、ひとまずは仕事に注力することにした。

自分の関心のある社会心理学あたりで本当に研究したいテーマが定まったら次のステップも検討していきたい。その道の専門家からアドバイスをもらいながら論文を書けるというのはかなり貴重だと思う。

最後に

お読みくださりありがとうございました。

(ちなみに、アイキャッチの写真は日吉キャンパスで撮ったものです。夏ももう終わるなあとか感傷に浸りながら撮った記憶があります)

SNSにおける承認欲求に関する論文メモ

SNSにおける承認欲求に関する論文で興味深かった内容をいくつか書き留めておきます。

なぜわれわれは SNS に依存するのか?─ SNS に“ハマる”心理─

出所はこちら。
http://repo.kyoto-wu.ac.jp/dspace/bitstream/11173/3029/1/0140_014_012.pdf

周りから浮いてしまうことを嫌う日本人的な気質を持ってい る人たちにとっては、いかにも自意識過剰な“自 撮り”写真をあげるのではなく、周囲の人たちか ら目を付けられないような“ほどよい自己表現” にうまく収めることができるというのも SNS の 特徴である。(p.165)

インスタ映えという言葉が死語となったのも、過度な非日常の演出や実態を超えた表現に対する嫌悪感から、若者がナチュラルな自己表現を好むようになったからであると言われています(要出典)。SNSにおいても周りの目を気にした行動をとるというのは実に日本人的ですね。

周りの人た ちに自分が受け入れられたいと望む承認欲求には、 「ひとにすごいと思われたい」とか「羨ましがら れたい」というような他者から肯定的な評価を得 ようとする賞賛獲得欲求と「イケてない奴だと思 われたくない」とか「周りの人に嫌われたくない」 などのような否定的な評価を避けようとする拒否 回避欲求の側面がある(p.165)

なるほど。承認欲求というと前者(賞賛獲得欲求)を想起していましたが、後者の側面もあるんですね。人間の損失回避性はなかなか興味深いです。

基本的に日常の断片的な 切り取りをした自己開示なので、リアルで継続的 な人間関係とは違い、比較的自己コントロールが 簡単なのである。リアルな人間関係では露呈しが ちな自分の嫌の部分を隠しておくこともできる。 だから自分に対する評価を維持しやすい。(p.165)

これはSNSにハマる理由に関する記述です。ある意味ではこれも自分の嫌な部分を開示することにより生じる損失の回避とも言えそうですね。

ここで注目すべきは、SNS の依存傾 向が高い人の「できるだけ相手の機嫌を損ねたく ない」、「できるだけ敵は作りたくない」、「友だち と分かりあおうとして、少しくらい傷ついても構 わないとは思わない」という特徴である。これら は前項で指摘した「拒否回避」的な特徴そのもの である。SNS 依存の心理的特徴の本質のひとつに、 深くて密な人間関係を持つことに回避的であり、 周囲から疎外されることへの恐怖から、より無難 な距離を保とうとする人間関係を求める心性があ ると言える。(p.166)

興味深い内容です。日本の若者はなぜそんなにも疎外や損失を恐れるのでしょうか...。

承認欲求についての心理学的考察 ─現代の若者と SNS との関連から─

後から気づきましたが、1つ目の資料の著者と同じでした。

出所はこちらです。
http://repo.kyoto-wu.ac.jp/dspace/bitstream/11173/2640/1/0140_012_002.pdf

岡田(1999)は、親密で自己開示を積極的 にするような友人関係の特徴を「内面的関 係」と呼び、一方でその対をなす関係で、そ のときどきの表層的な楽しさや心地よさを追 求する群れ的で同調的な関係を「表面的関 係」としている。齊藤・藤井(2009)は、大 学生を対象にした調査で、他者からの拒否を 回避したり怖れたりする心性が、この同調的 な「表面的関係」を促進することを明らかに している。(p.29)

 

今の若者や大学生 が「内面的関係」を持ちえないと言っている のではない。むしろこの「内面的関係」を求 めているように見える。しかし身近な友達に そのつながりを求めて、もし拒否されてし まったらどうしようという不安が強いために、 自分からわざわざ「恥ずかしい」思いをする ような内面の告白をするのを避けて、結果表 面的な付き合いに留めておくということを選 んでいるようだ。(中略)。どちらかという と相手を喜ばせることよりも、相手を傷つけ ない気遣いが重視されているようである。(p.30)

1つ目の論文と同様の内容ですが、自分自身が傷つきたくないから他者に対しても損失回避を意識したやさしさが(積極的なやさしさよりも)重視されているという点は非常におもしろいですね。

表面的関係を日常的にあまりに意識するが故に、そのはけ口としてSNS(特に、俗にいう裏アカ)がよく使われているのかもしれません。

「今の若者や大学生が(中略)『内面的関係』を求めているように思える」という主張の根拠は不明ですが、表面的関係に対する相対的な内面的関係の貴重性は高まるため、このニーズに対する何らかのアプローチができるとよさそうです。

今あるほとんどのSNSが表面的関係の構築・維持のために使われているとするならば、内面的関係の構築を後押しするようなSNS(別にSNSにこだわらなくてもいいけど)が出てくるとおもしろいかもしれませんね。

ロジスティック回帰さん 独占インタビュー「分類を行う私がなぜ"回帰"と名乗るのか」

司会「本日はロジスティック回帰分析さんにお越しいただきました。ロジさん、本日はよろしくお願いいたします。」

ロジスティック回帰(以下ロジ)「はい、よろしくお願いいたしますー。」

司会「早速ですけど自己紹介をお願いします。」

ロジ「はい、ロジスティック回帰(logistic regression)と申します。多変量解析の手法の一つで、一つのカテゴリ変数(二値変数)の成功確率を複数の説明変数によって説明・予測します1。」

ロジ「具体的な分析例を挙げると、たとえば、ある特定の病気を発症した人とそうでない人の性別や年齢、生活習慣などのデータを分析することで、病気の発症に対する各要素の影響度を明らかにすることができます。もちろん、そのモデルを使って『この人は病気にかかっているか』を予測(分類)することも可能です。」

ロジ「医療の例を挙げましたが、業界にとらわれずさまざまな分野で使っていただいていると認識しています。」

司会「ありがとうございますー。なるほどー幅広く使われているんですね。」

司会「早速ですが本題に入りたいと思います。ロジさん、基本的には二値分類が分析タスクになると思うんですけど2なぜロジスティック分類ではなく、ロジスティック回帰というお名前なんでしょうか。

ロジ「最終的には分類していますが、実際には回帰分析だからですね。」

司会「ほほう、もう少し詳しく聞きたいですね。」

ロジ「まず、ロジスティック回帰では0/1の分類問題をいきなり解いている訳ではありません。ある事象が発生する(1)確率を予測し、0.5をしきい値として分類しています。たとえば、予測された確率が0.6なら事象が発生する(1)と判定します。」

司会「あれ、それなら普通に確率を重回帰分析すればいいんじゃないんですか?」

ロジ「そうしたいところなんですけど、できないんです。というのも、求めたいのは確率なので被説明変数は0から1の間に収めたいんですが、普通に回帰分析してしまうとたとえば1を上回る数値が出てきてしまうんです。」

ロジ「ここでちょっと視点を変えてみます。確率という0から1の間に収まる値を、線形回帰できるように-∞から+∞をとる値に変換できないでしょうか。この話の前提となるオッズ比について説明しますね。」

ロジ「オッズ比とは、ある事象が起こる確率pと起こらない確率1−pの比(p/1-p)のことで3、確率が高くなればなるほど大きく、確率が低くなればなるほど小さくなります。この段階でとりうる範囲は0から+∞になります。」

ロジ「さらに、このオッズ比の自然対数を取った値を対数オッズ比(log odds)と言います。オッズ比と同様、事象の発生確率が高いと値は大きくなります。対数化によりとりうる値が-∞から+∞になりました!パチパチパチ」

司会「は、はあ」

ロジ「この対数オッズ比を関数とみなしたものをロジット関数(logit function)といい4、確率pをこの形に変換することをロジット変換と言います5。」

ロジ「ロジット変換により、確率という0から1までしか取り得ない概念を-∞から+∞までの数値に対応付けることができました。あとはこれを回帰すればいいので、ln{y/(1-y)}=α+β1x+...+βnxnで、ロジスティック回帰モデルの完成です!はい、ということで終わりにしたいと思うんですけど」

司会「いや勝手に終わらないでください。そもそも、線形回帰ならy=ax+bでyがそのまま被説明変数な訳ですけど、その式だとy、つまり確率そのものまで求め切れてないですよね。」

ロジ「バレましたか。ではもう少しご説明します。」

ロジ「おっしゃる通り、最終的に求めたい値はyなので式を変形していきたいと思います。そのためにロジット関数の逆関数を求めてみます。具体的な式変形についてはこちらをご覧ください。これにより、ロジット関数はロジスティック関数y=1/(1+e^-(α+β1x+...+βnxn))に変換されました。」

ロジ「あとは、予測したいデータの値をxに当てはめれば、具体的な予測確率yが求められます。」

司会「おーついに確率まで求められましたね。ありがとうございますー。本来は線形回帰できないはずの二値データをロジット変換によりあたかも量的データとして扱うことによって回帰させちゃうということですね。よくわかりました。」

司会「ちなみに、分析するうえで注意すべき点など何かありますでしょうか。」

ロジ「分析で注意すべき事項についてはこちらのスライドとかがわかりやすいですかね。あと、参考文献を下の方にまとめているのでぜひお読みください。」

司会「ありがとうございますー。ということなので読んでみてくださいッ。いやー今日はロジさんのことがよくわかりました。改めてありがとうございましたー。」

ロジ「こちらこそありがとうございましたー。誰かのお役に立ったのであれば幸いですー。」

参考文献


  1. http://www.cardio.med.tohoku.ac.jp/2005/news/pdf/20131010_slide.pdf

  2. 二値分類だけでなく、3項(カテゴリー)以上の分類も可能です。その場合は多項ロジスティック回帰分析を行います。

  3. 3.ロジスティック回帰 - BootCamp for B4

  4. ロジット関数とロジスティック関数 - 具体例で学ぶ数学

  5. ロジット変換とプロビット変換

生存時間分析とマーケティング

あることがきっかけで生存時間分析(survival time analysis)を勉強することになったので、調べたことを簡単にまとめてみようと思います。

生存時間分析では生存時間を分析します(そのまま)。定義は以下の通り。

生存時間解析 (survival time analysis) では,基準となるある時点から,目的となるイベントの発生までの時間を解析する.例えば,ある疾患の登録研究において,登録時から疾患発症,死亡,入院などのイベント発生までの時間が解析対象となる.

出所: https://www.cardio.med.tohoku.ac.jp/2005/newmember/pdf/ms/19_7S.pdf

例えば、ある患者が1年後に生存する確率は何%かを求める際、生存時間分析を行います。また、生存時間の予測も可能であるため、ある患者の死亡時期を推定することも可能です。

細かい概念を書き留める気力がないので、個人的に一番わかりやすいと思った資料を載せておきます。

以下の資料では、数ある生存時間分析の計算手法のなかでよく使われるCox比例ハザードモデルについて解説しています。

www.slideshare.net

この生存時間分析ですが、本当の生存時間を分析する以外にもいろいろ使われているようで、マーケティングでも広く使われているようです。

手段から活用方法を考えるというのもナンセンスな気がしますが、生存時間分析のマーケティングにおけるユースケースを少し考えてみます。

  • 解約予測

    • マーケティングにおける生存時間分析といえば解約のモデル化が定番かと思います。この場合、死亡=解約とみなして分析するパターンです。
  • 来店予測

    • これも定番です。今度はイベントの発生=来店とみなして分析するパターンですね。
  • ブランドスイッチの予測

    • これも結構事例がありそうです。
  • Webサイトの離脱予測

    • これは考えてみたけど筋が良くない気しかしないです。リアルタイムで分析できたとしても予測のコストに対して得られる実益が低すぎます。
    • 時間軸を伸ばせば使えるかもしれません。たとえば、サービスページからホワイトペーパーをDLしたリード顧客がそのまま継続してWebサイトを訪問し一定のアクションを起こすか、そうでないかが分析できそうです。MAでうまく設定した方が早そう。
  • 流行がいつ廃れるか

まだまだ他にもアイデアは出てきそうですが(ネタ切れ)、今日はこの辺にしときます。

参考資料

課題の質を高める

何かしらの事業を始める際、あるいは既存のプロダクト・サービスに新機能を加えたりPivotしたりする際、まずはターゲットとなる顧客やユーザーの課題を正しく理解する必要があります。

ただ、顧客にとって重要な課題を見極めるのは簡単ではありません。表面的な課題は認識できても、その裏にある背景が読み取れなければ適切な解決策を提示できません。

ということで、課題の質を高めるために何をすべきか、二つの文献(しかも一部分だけ)をまとめつつ、個人的な所感を書き留めます。

課題の質を決める要素

ネット上で良くも悪くも有名(?)な田所氏によると、スタートアップにおいて課題の質を決めるのはファウンダーが以下の要素を具備しているかに依存すると主張しています。

①高い専門性
②業界(現場)の知識
③市場環境の変化(PEST)に対する解像度

出所: 起業の科学 スタートアップサイエンス

①~③への理解があれば、表層的な課題にとらわれることなく、現場のリアルな困りごとをその背景にある真の課題を読み解き、適切な打ち手を発想することができるわけです。

一方で、シリコンバレーで著名なKevin Ryan氏は、質の高いアイデアを特定するための方法として以下の三つを挙げています。

①Be Observant—Look for Inefficiencies and Problems Every Day
②Take Time to Define the Problem
③Identify the Right People

出所: How Do You Identify a Big Idea? AlleyCorp's Kevin Ryan Shares Tips – HBS Accelerate

彼はさまざまな分野で多数の事業を成功させており、業界特化の専門性は必須ではなく、むしろ独創的な視点で物事を見られるというメリットさえあると言っています。

彼の場合、日常の中で既存のプロダクト・サービス、何らかの仕組みに対して非効率や製薬がないか、好奇心を持って観察することを重要視する一方で、世に出る新しいプロダクト・サービスにも高い関心を持っているようです。

また、顧客との対話も重要視しており、顧客や課題に関する学習が飽和するまで、インタビューを行うそうです。

個人的に思うこと

二つの文献の一部だけ切り取って何か意見を言うのもアレですが、PESTへの理解と現場の理解はお二方とも共通して重要と考えられていたかと思います。

誰かが困っている、あるいは誰かが喜ぶだろうというリアリティのない課題にならないよう、n=1であっても生身の人間を喜ばせることができるかという視点を持つことで課題の質が上がるのだと思います。

どのようなビジネスモデルを採用するにしても、着目する課題がその人たちにとって切実なものでなければ心理・行動の変容は生じず、事業として成功するはずもないため、課題の質の追求は当然最重要課題になるわけです。

またPESTの理解は、社会の趨勢を見極め今後起こりうる社会トレンドを予測するだけでなく、新しく生まれたアイデアと現場の課題や状況とを照らせて解決策を考えたり、顧客自身を取り巻く環境を変え得る因子の変化を把握したりすることにつながります。

この二つを踏まえると、俯瞰的に見ることと近視眼的に見ることの二つをうまく行き来することが課題の質を上げることにつながると言うこともできそうです。

おわりに

ここまであえて非常に狭い論点で述べてきましたが、アイデアを考えるときの一つのヒントをもらえた気もしています。

今日は謎日記になってしまいましたが、次回以降はもう少し中身のある内容を書こうと思います。ではでは。

参考資料

Customer-Problem Fit達成のためにやるべきこと

Customer-Problem Fitとは、スタートアップにおいて、課題が実際に存在するか、解決する価値のある課題であるかを検証するプロセス、またはそれらが検証された状態のことです。

今回、このCustomer-Problem Fitのフェーズで実施すべきタスクについて、以下三つの記事・資料を参考に自分なりの解釈で「こうすればよいのではないか?」という進め方をまとめていきます。

Startup Science 2020完全版 (2550 page) | by Masa Tadokoro (田所 雅之) | Medium
新規事業立ち上げ時に役立つ仮説検証ノウハウ集 - ReLic
Turn Your Idea into a Product Users Want: Identify the Right Problem – HBS Accelerate

前提条件

このプロセスを開始するにあたり、あらかじめ具体的な事業アイデアが必要となります。

具体的には、リーンキャンバスに内容を書き切れるくらいの基本事項は定まっている必要があります。ちなみに資料①, ②でも、リーンキャンバスに使った初期プランができていることを前提としていました。

ただし、この時点でアイデアは未検証(Customer-Problem Fitで検証するので)であり、確定されたものではなく、検証するなかで変化します。

Why Customer-Problem Fit

あなたの想定する顧客の課題が本当に存在するのか、切実で解決するに値する課題なのかを見極めるためにこのプロセスが存在します。

プロダクト・サービスの品質や使用される技術、採用するビジネスモデルがどれだけ優れていても、顧客の課題が存在しない、あるいは大した課題でなければ、事業として成り立ちません。

思い浮かぶプロダクトがあれば思わず作り始めてしまいそうなところですが、まずはこのプロセスを通して課題の質を向上させることが先決です。まさに「急がば回れ」ですね。

Customer-Problem Fitのプロセス

✔︎課題定義と構造化

この段階の課題はまだ未完成かつ未検証な状態であるため、課題そのものが曖昧なままになっている可能性があります。

課題の原因となる事象や背景はないか、課題を細分化・抽象化できないかを検討し、必要に応じてロジックツリーなどで整理します。

課題を見直し、整理したうえで改めて顧客セグメントを再検討します。このとき、想定されるあらゆる顧客セグメントの中でもっともその課題を切実に解消したい、あるいはもっとも課題に悩んでいると考えられる顧客セグメントを特定することがポイントとなります。

✔︎ペルソナの定義

顧客セグメントの情報を基に具体的な顧客像であるペルソナを定義します。年齢、性別、趣味、職業、年収、生活習慣、価値観などをまとめることで、顧客像がより鮮明になります

また、共感マップを使って、その人が普段目にすること、考えていること、耳にしていること、感じていることなどを整理するとさらに具体的になります。

✔︎カスタマージャーニーマップの作成

課題の性質に合わせ、カスタマージャーニーマップを作成します。

顧客の辿るフェーズを横軸、顧客の行動・感情・課題を縦軸に描くパターンが多いかと思います。これにより、顧客の課題発生までの時間的な流れを理解することができます

また、後の顧客インタビューの際、インタビュイーの回答とあらかじめ作成したカスタマージャーニーマップとの差異を確認することができるため、顧客に関する認識形成・学習に役立ちます。

✔︎ジャベリンボードの作成

ジャベリンボードは、顧客、課題、課題発生の前提条件、ソリューション、検証方法などを1グループとし、課題とソリューションを検証するツールです。

カスタマージャーニーマップから一歩踏み込み、顧客インタビューのなかでジャベリンボードで設定した仮説グループを主体的に検証し、それらに関する学びを得ることが目的です。

ここでは、単に課題を明確化するだけでなく、課題が発生する前提条件も洗い出し、優先順位を付けることが重要です。

✔︎顧客インタビュー

これまでの成果物をインプットしたうえでペルソナと同様の特性を持つ人にインタビューを行います。一人と深く話をするため、基本的には1対1でのインタビューが適切です。

インタビューの結果を記録・考察した後、そこから得た内容をジャベリンボードにフィードバックします。必要であれば、ペルソナやカスタマージャーニーマップも修正しましょう

このサイクルをCustomer-Problem Fitの完了条件を満たすまでひたすら繰り返していきます。

✔︎市場規模の分析

スモールビジネスではなく、大規模なスケールを目指すスタートアップの場合、市場規模が小さすぎないことを確認しましょう。

多くの生活者にスケールしうるものであれば問題ないですが、極端な話TAM(Total Accessible Market)が100人となると再考せざるを得ません。

Customer-Problem Fitの完了条件

以下のような条件を満たせばCustomer-Problem Fitしたものとし、次のフェーズに進みます。
・課題が存在していること
・課題が解決するに値する切実な事柄であること
・ペルソナ・カスタマージャーニーマップが確定していること(インタビューを繰り返した結果、修正箇所がほとんどなくなってきている)
・課題の詳細(5W1Hなど)を文章として明確に表現できること

ということで、Customer-Problem Fitについて簡単にまとめてみました。今後もこういうジャンルの記事を書いていくと思うのでご期待ください。

以下、参考資料です。

WTP(Willingness to pay)の質問形式と活用方法について

WTPとは何か

WTP(Willingness to pay)は、顧客がある商品やサービスに対して支払ってよいと考える金額のことで1、支払意思額と呼ばれることが一般的かと思います。

新製品・サービスの価格設定や、既存製品・サービスの値上げ・値下げを行うにあたり、アンケートで消費者にWTPを回答してもらい、その回答結果に基づいて意思決定を行うというケースが多いようです。

また、マーケティングリサーチ以外でも、環境経済学において環境の価値を計測・計算するために使われることもあるようです。

WTPの質問方法

自由回答

ド直球に「あなたならこの商品何円で買いますか?」と聞く方法です。

Webアンケートであれば数値入力のボックスに数値を打ち込めば終わりです。

シンプルでわかりやすいですが、アンケートの中に特定の数値、あるいはそれを想起させるものがあるような場合、その数値にアンカリング(anchoring)されるため注意が必要です。また、どのような値の入力も許容されるため、外れ値が多くなりがちです。

選択回答

自由回答と同様、「あなたならこの商品何円で買いますか?」と聞きます。

ただし、回答は自由入力ではなく、あらかじめ決められたいくつかの選択肢から選んで回答することになります。

選択肢が限られるため外れ値はなくなりますが、選択肢が決まっていることによるバイアス(range bias)が生じる可能性があります。

付け値ゲーム(bidding game)

提示した支払額に対して回答者が「はい」(あるいは「いいえ」)と答えるまで繰り返し金額を提示する形式です。

たとえば、「あなたはこの商品に月1,000円まで支払えますか?」と聞き、「はい」と答えた場合は月1,500円、月2,000円ならどうかと金額を上げて聞き続け、回答者が「いいえ」と回答するまで続けます。

この方式も外れ値を抑えることはできますが、実際のWTPと提示額が大きく離れていた場合、WTPを答えるまでに回答をやめるというバイアス(starting point bias)が発生する可能性があるため、注意が必要です。

Van Westendorp方式

オランダの経済学者であるVan Westendorpさんが考案したPSM分析で用いる質問方式です。

以下のような四つの質問に対して自由に価格を回答してもらいます。

商品がいくらになると、高くて買えないと感じはじめるか
商品がいくらになると「高い」と感じはじめるか
商品がいくらになると「安い」から買おうと感じはじめるか
商品がいくらになると、安すぎて不安に感じはじめるか
出所: PSM分析とは

回答から累積曲線のグラフを作り、各質問の曲線の交点となる位置の価格をそれぞれ最高価格、妥協価格、理想価格、最低品質保証価格とみなすようです。詳細は以下の記事をご覧ください。 www.pkmarketing.jp

期待価格(Expected cost)

「この製品/サービスの価格は何円だと思いますか?」と聞く方式です。これは正確にはWTPではありません。

まったく新しいコンセプトの製品・サービスのような、価格の想像もつかないような場合にこの形式を用いるようです。

WTPの活用

消費者からWTPを収集し集計することで、たとえば顧客セグメント別・ペルソナ別のWTPの傾向が把握できます(e.g. 箱ひげ図)。

これにより、顧客セグメントやペルソナごとにWTPの傾向が違うことがわかれば、料金プランの変更、新たな料金プランの導入など、価格に関してデータに基づいた意思決定が可能となります。

また、一つの製品/サービスだけで言っても、ユーザーがその中でどの機能に価値を感じているかをWTPを使うことで金銭価値として明らかにすることもできます。このようなデータがあれば、機能追加・改修に関する意思決定に役立ちそうですね。

WTPへの影響要因やWTPの活用方法についてはこちらの記事にいろいろ書いているのでこちらをご覧ください。 www.priceintelligently.com

さいごに

WTPも奥が深いですね。Twitterのアンケート機能を使って何か実験してもおもしろいかも。

ちなみに、この記事ではそんなに触れていませんが、さまざまなバイアス(bias)によって回答者のWTPが歪められる危険性があります。

この点は以下の参考文献(特に上二つ)にバイアスの種類・内容や対処法が記載されているので、ご覧いただければと思います。

参考資料