WTP(Willingness to pay)の質問形式と活用方法について
WTPとは何か
WTP(Willingness to pay)は、顧客がある商品やサービスに対して支払ってよいと考える金額のことで1、支払意思額と呼ばれることが一般的かと思います。
新製品・サービスの価格設定や、既存製品・サービスの値上げ・値下げを行うにあたり、アンケートで消費者にWTPを回答してもらい、その回答結果に基づいて意思決定を行うというケースが多いようです。
また、マーケティングリサーチ以外でも、環境経済学において環境の価値を計測・計算するために使われることもあるようです。
WTPの質問方法
自由回答
ド直球に「あなたならこの商品何円で買いますか?」と聞く方法です。
Webアンケートであれば数値入力のボックスに数値を打ち込めば終わりです。
シンプルでわかりやすいですが、アンケートの中に特定の数値、あるいはそれを想起させるものがあるような場合、その数値にアンカリング(anchoring)されるため注意が必要です。また、どのような値の入力も許容されるため、外れ値が多くなりがちです。
選択回答
自由回答と同様、「あなたならこの商品何円で買いますか?」と聞きます。
ただし、回答は自由入力ではなく、あらかじめ決められたいくつかの選択肢から選んで回答することになります。
選択肢が限られるため外れ値はなくなりますが、選択肢が決まっていることによるバイアス(range bias)が生じる可能性があります。
付け値ゲーム(bidding game)
提示した支払額に対して回答者が「はい」(あるいは「いいえ」)と答えるまで繰り返し金額を提示する形式です。
たとえば、「あなたはこの商品に月1,000円まで支払えますか?」と聞き、「はい」と答えた場合は月1,500円、月2,000円ならどうかと金額を上げて聞き続け、回答者が「いいえ」と回答するまで続けます。
この方式も外れ値を抑えることはできますが、実際のWTPと提示額が大きく離れていた場合、WTPを答えるまでに回答をやめるというバイアス(starting point bias)が発生する可能性があるため、注意が必要です。
Van Westendorp方式
オランダの経済学者であるVan Westendorpさんが考案したPSM分析で用いる質問方式です。
以下のような四つの質問に対して自由に価格を回答してもらいます。
商品がいくらになると、高くて買えないと感じはじめるか
商品がいくらになると「高い」と感じはじめるか
商品がいくらになると「安い」から買おうと感じはじめるか
商品がいくらになると、安すぎて不安に感じはじめるか
出所: PSM分析とは
回答から累積曲線のグラフを作り、各質問の曲線の交点となる位置の価格をそれぞれ最高価格、妥協価格、理想価格、最低品質保証価格とみなすようです。詳細は以下の記事をご覧ください。 www.pkmarketing.jp
期待価格(Expected cost)
「この製品/サービスの価格は何円だと思いますか?」と聞く方式です。これは正確にはWTPではありません。
まったく新しいコンセプトの製品・サービスのような、価格の想像もつかないような場合にこの形式を用いるようです。
WTPの活用
消費者からWTPを収集し集計することで、たとえば顧客セグメント別・ペルソナ別のWTPの傾向が把握できます(e.g. 箱ひげ図)。
これにより、顧客セグメントやペルソナごとにWTPの傾向が違うことがわかれば、料金プランの変更、新たな料金プランの導入など、価格に関してデータに基づいた意思決定が可能となります。
また、一つの製品/サービスだけで言っても、ユーザーがその中でどの機能に価値を感じているかをWTPを使うことで金銭価値として明らかにすることもできます。このようなデータがあれば、機能追加・改修に関する意思決定に役立ちそうですね。
WTPへの影響要因やWTPの活用方法についてはこちらの記事にいろいろ書いているのでこちらをご覧ください。 www.priceintelligently.com
さいごに
WTPも奥が深いですね。Twitterのアンケート機能を使って何か実験してもおもしろいかも。
ちなみに、この記事ではそんなに触れていませんが、さまざまなバイアス(bias)によって回答者のWTPが歪められる危険性があります。
この点は以下の参考文献(特に上二つ)にバイアスの種類・内容や対処法が記載されているので、ご覧いただければと思います。