Matsu Blog

マーケティング、事業開発、統計学をテーマに何かしらを書き留めていきます

0/1st/2nd/3rd Partyデータについて調べてみた

0 Partyデータとは

ユーザーが企業に対して意図的に提供するデータのこと。

アンケートから得られるユーザーの興味・関心やライフスタイルなどが挙げられる。

参考:ゼロパーティデータとは 意味/解説 - シマウマ用語集

1st Partyデータとは

企業がユーザーから直接収集しているデータのこと。

会員登録時のユーザーの基本情報(名前、年齢、居住地など)や、Webサイトやアプリでの行動履歴、購買履歴などが挙げられる。

参考:Zero Party Data: What It Is and Why You Need It - Oktopost

2nd Partyデータとは

企業が、協力関係にある他の企業から提供を受けるデータのこと。

"他の企業"にとっては1st Partyデータであるため、データの性質自体は既に述べた1st Partyデータと同様。

参考:What is Second Party Data and How Can you Use it? | Lotame

3rd Partyデータとは

データ収集対象となるユーザーとは直接関係を持たない企業が収集したデータのこと。

国勢調査や経済統計データなど行政が公表するデータや、ソーシャルメディアや口コミなどの民間のデータなどが挙げられる。

参考:What is Third-Party Data? - SpotX

一言メモ

1st Partyデータだけでは見えてこないユーザーの興味・関心や意識、ニーズを明らかにするため、それ以外のデータソースから調達して活用するわけです。なるほど。企業が従来使ってきた1st Partyデータ以外といかにうまく組み合わせるかが鍵になりそうですね。

企業が抱えるマーケティングに関する課題・悩みを調べてみた

とある事情で企業が抱くマーケティングに対する課題感を把握しておく必要ができたので、企業へのアンケート調査をネットで少し調べてみました。

各記事の下には個人的に気になったことを書き留めておいてます。要約とかではないのでご注意を。

マーケティングの課題、最大は「人材不足」? - MarkeZine RESEARCH(2020)

markezine.jp

マーケティングに関する課題として最も多く挙げられたのは マーケティング人材の不足
・人材系の課題に次いで、 マーケティングスピード感のなさが多く挙げられた

調査結果により、75.5%がデジタルマーケティングは「ビジネスに貢献している」と回答 - 富士通総研(2020)

www.fujitsu.com

・デジタルマーケティングの成熟度が高い企業ほど「データ不足」を課題として認識している

【調査結果】2020年に直面する5つのマーケティング課題 - ThinkContent(2020)

thinkcontent.jp

マーケティング施策と経営指標との結びつきを説明できない(ROIが語れない)
・優先順位を柔軟に変更できるようアジャイルな組織にする必要がある

デジタルマーケティングについての調査結果。6割以上が「部門」だけでなく、「社内全体」で必要だと回答【シンクロ調べ】- advanced(2020)

advanced.massmedian.co.jp

・マーケター人材不足

【保存版】企業のマーケティング担当者113人に、日々の業務の悩みや課題を聞いてみた - PLAN-B(2019)

service.plan-b.co.jp

・複数のデータを統合的に分析したり、データ分析の結果に基づいて戦略を立てたりすることができていない
・市場調査の結果をうまく活用できていない
・アイデア出し、コンセプト設計がうまくできていない
・顧客のセグメンテーションがうまくできていない

~95%以上の企業が「デジタルマーケティングの重要性」を感じる時代に~デジタルマーケティング実施状況についてアンケート調査 - TIS(2015)

www.tis.jp

・デジタルマーケティング推進の遅れは、マーケティング部門とIT部門の連携不足データ分析人材の不足が主因となっている


こうして全体を眺めてみると、マーケターの人材不足以外にもデータ分析人材の不足や、組織連携の課題など、いろいろ見えてきますね。

『筋の良い仮説を生む 問題解決の「地図」と「武器」』を実践してみた

どうも、コンサル修行中のまつ(@wannko5296)です。

コンサルティングに関する書籍をいくつか読んでいるのですが、なんだかんだ言って実践しないと習得できないことに気づいたので、自身のリードするプロジェクトを『筋の良い仮説を生む 問題解決の「地図」と「武器」』のフレームに沿って実際に検討してみることにしました。

この記事では、実践する中で気になったポイントや思ったことを備忘録としてまとめていきます。


筋の良い仮説を生む 問題解決の「地図」と「武器」

実践した感想

先に感想を書いておきます。

本書を実践したことでビジネスにおける問題解決の基本的な考え方・プロセスを概観することができました。

実際にこういうフレームに沿って考えてみると、これまで感覚的にやっていた中では思いつかなかったような視点・切り口で検討を進められるので、思考の幅は広がり、アイデアの網羅性が高まった気がします。

本書の冒頭で、若手向けではなく課長、係長レベルを想定しているとの記載がありましたが、おそらくその層だとやや物足りないのではないかと感じました。

非常にわかりやすく読み易いですが、内容はそこまで深いように感じませんでした(失礼)。むしろ、20代後半の若手層が今後を見据えてインプットするのが望ましいと思いますね。

以降、この本で紹介されている問題解決の7ステップの概要と個人的に重要と感じた点についてまとめます。

ステップ1 現状分析

ポイント

  • いきなりWhy, Howを考えるのではなく、まずはWhereで事象を細分化する
  • MECEを常に意識し、抜け漏れなく細分化する

ステップ2 問題認識

ポイント

  • 琴線に触れる問題か見極める(心が動く問題か)
  • あるべき姿(ToBe)を具体化し、それに照らして現状(AsIs)を捉える

ステップ3 情報収集

ポイント

  • 闇雲に情報を集めるのではなく、問題の原因仮説を立てたうえで情報を集める
  • 「事業部長の視点」で視座高く、視野広く検討する

ステップ4 課題抽出

ポイント

  • 本質的課題(≒ボトルネック)か見極める
  • 3C(Customer, Competitor, Company)の観点を総合して課題化する

ステップ5 解決策の方向性

ポイント

  • 方向性を定めるの際のベースとする戦略論(差別化戦略、コストリーダーシップ戦略など)を検討する

ステップ6 アイデア創出

ポイント

  • 直感でアイデアを出し、事後的にロジックを整理する
  • so what? why so? 他にないか?と問いを繰り返して具体化する

ステップ7 評価

ポイント

  • イデアを正しく評価するための判断軸を検討する

成果物

詳細はお見せできませんが、ステップ1~7まででこれくらい検討を重ねてきました。

感想にも記載した通り、一人で闇雲に検討した際には思いつかなかった新しい観点で問題、課題を捉えることができました。 f:id:wannko5296:20200817160159p:plain

書籍情報


筋の良い仮説を生む 問題解決の「地図」と「武器」

「経験の再利用性」を高めるための経験学習

はじめに

突然ですが、みなさん以下のような経験をしたことはないでしょうか。

  • 仕事で同じような失敗を繰り返してしまった。
  • 一度仕事で経験したことがあるにも関わらず、その知見を同様の問題に対して活かせなかった。

多くの方が経験されることかと思います。単に本を読んで得た知識ならまだしも、現場での実体験を伴ったにもかかわらず、その経験を次につなげられないことは多々あります。

ではどうすれば、私たちは仕事や普段の生活で経験したことを将来に活かすことができるのでしょうか。

この記事では筆者が個人的に好きな経験学習(Experiential learning)という概念をもとに「経験の再利用性」を高めるためのマインドセットと事例について説明します。

学びの構造

人はいかにして経験から学び、成長するのでしょうか。

そのメカニズムを説明する概念が経験学習(Experiential learning)です。

経験学習

経験学習とは、個人が体験したことを振り返り、教訓を生み出すことで学びを得るという考え方のことです。また、経験学習の過程をモデル化したものが以下の経験学習モデルであり、教育理論家のDavid Kolb氏によって提唱されました。

人は実際の経験を通し、それを省察することでより深く学べるという考え方を、人材育成の領域では「経験学習」と呼びます。組織行動学者のデービッド・コルブはこうした学びを、体系化・汎用化された知識を受動的に習い覚える知識付与型の学習やトレーニングと区別し、「経験→省察→概念化→実践」という4段階の学習サイクルから成る「経験学習モデル」理論として提唱しています。
出所:日本の人事部 - 「経験学習」とは?

f:id:wannko5296:20200331151405p:plain 人と組織の学びをデザインする - 「経験から学ぶ」という学び方を参考に筆者作成

各プロセスの意味は以下の通りです。

  • 具体的経験:自ら主体的に関わって得た経験(仕事でも趣味でも何でもよい)
  • 省察的観察:具体的経験を俯瞰的に客観視し、そのときの事象や行動、感情などを振り返る
  • 抽象的概念化:省察的観察により認識した事柄を抽象化し、意味づけして教訓を作り出す
  • 実践的行動:抽象的概念化により作り出した教訓を実践で能動的に用いる

例えば、会社員Aさんは顧客へのプレゼンで「全然わかっていない」と怒られてしまったとしましょう(具体的経験)。振り返ると、自分のプレゼンでは製品の特長や工数削減による効果に重きを置いて説明したことを思い出します。プレゼンスキルについては他者からも定評があるため、話の進め方や表現ではなく内容に問題があったと判断します。よく考えると、顧客のBさんは製品導入による既存システムとの連携可能性についてよく言及されていたことを思い出しました省察的観察)

今回の事象は、「相手の期待と異なるプレゼンは顧客を落胆させ怒りをも買いうる」と抽象化することができます。この内容をもとに「顧客の期待を洗い出し、その期待に応えられるようなプレゼンに仕上げるべきだ」という教訓を作り出しました(抽象的概念化)。後日Aさんは、Bさんやその上司の期待にあった内容で整理したプレゼン資料を準備し、改めてプレゼンを行いました(実践的行動)

抽象的概念化については、抽象化と概念化という似て非なる概念が登場するため以下で詳細に説明します。

抽象化

抽象化は、簡単にいうと本質を見抜くことです。

抽象化は、複雑な事象の構造を明らかにする「構造化」と、複雑な事象から本質的な部分を取り出すとともに本質的でない部分を捨象(考察の対象から切り捨てる)する「単純化によって構成されます。(なお、この解釈についてはアナロジー思考のpp.1235-48(Kindle)を参考にしています)

ITエンジニアの方ならわかると思いますが、オブジェクト指向プログラミングでクラスを作ることも、データモデルを作ることも抽象化に他なりません。現実世界の具体的なもの・ことに対して、システム上で実現したい目的に照らし合わせて本質的な情報を属性として選択することはまさに抽象化です。

概念化

概念化は、省察して抽象化した内容をもとに、他の状況でも応用可能な教訓やルールを生み出すことです*1。

抽象化して抜き出した本質に対して何らかの意味を付することで他にも転用することができるようにします。ベストセラーのメモの魔力では、路上でのギター演奏の"抽象化"の例として「人は「うまい歌」ではなく、「絆」にお金を払う。(p.56)」という表現がありますが、これは経験学習でいう抽象的概念化に相当します。

同書で言及されている「ファクト→抽象化→転用」は経験学習の4つのプロセスと非常に近いですね。

*1 経験学習の理論的系譜と研究動向 - 中原淳, p.7

筆者の体験談

個人レベルでは、仕事で何か衝撃的(失敗、指摘など)なことがあった際に経験学習の観点でメモ書きしています。

経験学習を何かほかにも転用できないかと考え、アジャイル開発で経験学習を取り入れた例を少し紹介します。

スプリントの振り返り(レトロスペクティブ)における経験学習の利用

従来の「振り返り」

アジャイル開発では一定の開発期間(スプリント, イテレーション)を設け、それを繰り返しながらソフトウェアの開発を行います。各スプリントの最後には、メンバー同士で当該スプリントの振り返りを行う「レトロスペクティブ」という取り組みがあります。

振り返りの際にKPT(Keep, Problem, Try)を使うのが一般的なのですが、振り返りが表層的になってしまうことを個人的に懸念していました。つまり、ProblemとTryというグループ分けになっているために、目先で生じた問題をあげて、それを解決する短絡的な対策(Try)しか出ないのではないかという懸念です。

経験学習をベースにしたレトロスペクティブ

そこで、具体的な事象を掘り下げ、次につながる教訓を生み出す経験学習を振り返りの基礎としました。

具体的には、GitHub Project(いわゆるカンバン形式のタスクボード)で経験・省察・概念化・アクションの4つのレーンを作成し、そのカンバン上でメンバーで振り返りを行いました。

まず、そのスプリントで生じた事象や経験を「経験」のレーンに書き出していきます。まず、5分ほど時間をとって各自PCで入力してもらいます。その後、5~10分ほどとって全員で各自記入した内容を確認しながら議論します。

同様に、省察、概念化、アクションについてももくもくタイムと全員で議論する時間をとり、各レーンの内容を埋めていきます。若干工数はかかりますが、省察と概念化のための時間を明確に確保することで、短絡的な対処ではなく、根本原因に対して効果のある施策や新たな運用ルールを生み出すことができました

今後の課題 -組織的経験学習-

今私が作った言葉です。

個人単位の経験学習を超えて、組織的に経験を活用できればよいと考えてはいますが、ここについて論じるにはあと何日要するかもわからないので今後の課題としておきます。

ナレッジマネジメントの文脈でSECIモデルがしばしばとりあげられるので、SECIモデル×経験学習という概念の組み合わせでおもしろいことができるといいですね。

おわりに

この記事を読んで、「経験の再利用性」を高めるためのヒントを少しでも得られたのであれば幸いです。

記事で言及できませんでしたが、アナロジー(類推)も経験の再利用性を高める有用な考え方の一つです。

これについてはアイデア発想法の記事で少し言及しているので見てみてください。 wannko5296.hatenablog.com

個人的に好きなアイデア発想法をまとめてみた

はじめに

事業開発を進める中で要となるのが事業アイデアの創出です。しかしながら、誰にどのような価値を届けるかを決めるのは簡単ではなく、意見をうまく発散・収束させ、価値のあるアイデアをつくる必要があります。

ということで、今回は私が事業開発に携わった際に実際に使って好印象だったイデア発想法をまとめてみました。

タテマエメソッド&HMWQ

タテマエメソッド

タテマエメソッドはエンジニアのためのデザイン思考入門で言及されているフレームワークで、本音と建前に潜む矛盾をもとに新しい発見を得るための手法です。ターゲットとなる顧客や業界が決まっているとアイデアが出しやすいです。

[状況]にある[ユーザー]は、
[行動]をしている/する必要がある。
なぜなら[タテマエ]だからだ。
とはいえ、本当は[インサイト]である。
出所:エンジニアのためのデザイン思考入門, p.163

重要なポイントは「とはいえ」から始まる一文。

前3行だけだと当たり前のことを言っているだけになり、「そうだね」で終わってしまいます。そこで「とはいえ」の一文で、建前が実現できない現実的な事情や感情を示し、解決の糸口とするわけです。

例として、今書きながら思いついたことをタテマエメソッドで表現してみます。

日々の作業に追われながら働く若手SEは、
目先の作業だけでなく、1週間後、1か月後を見据えて作業計画を立てなければならない。
なぜなら、状況が変わりゆく中で最新の情報をもとに今後の作業計画を立てなければ、後々手戻りや準備不足によるロスが生じるからだ。
とはいえ、計画を立てるよりもその日の作業を確実に終わらせることの方が重要だ。

今後を見据えて将来の作業計画を立てることが重要とわかりつつも、目先の作業に没頭してしまうという矛盾を表現できました。ここで表現した矛盾を具体的な問題として定義します。

HMWQ

HMWQとは「どうすれば私たちは○×できそうか?(How Might We...?)」という問いのことです。タテマエメソッドで着目した矛盾について具体的な解決策を考える際に使用します。

ただ単に矛盾が解消された状態を文字にしても意味はありません。HMWQを考える際に以下のポイントを意識しながら問いを立てることで斬新かつ効果的な解決策につなげることができます。例えば、先に述べたタテマエメソッドをもとに「どうすれば私たちは、若手SEが将来の計画を立てられるようになるか?」と問いを立ててもあまりに安直で効果的な解決策につながりません。

  • 良い面を伸ばす
  • 悪い面を除去する
  • 反対を考える
  • 前提を疑う
  • 形容詞で考える
  • 他のリソースを活用する
  • ニーズやコンテクストから連想する
  • 課題に対して遊んでみる
  • 現状を変更する
  • 課題を分割する

  • どうすれば私たちは、作業者と管理者を分担し、分業して効率よくプロジェクト推進できるか?(前提を疑う)
  • どうすれば私たちは、若手SEをマネジメントするPMをアサインできるか?(他のリソースを活用する)
  • どうすれば私たちは、若手SEが目先の作業を進める中で将来の作業を意識せざるを得ないようなインセンティブを設定できるか?(?)

上述の例が質の高い問いとは言えないかもしれませんが、元々の矛盾を違った観点で捉えなおすことができ、新しいアイデアにつながります。

アナロジー(類推)

アナロジーの定義は以下の通りです。

特定の事物に基づく情報を、他の特定の事物へ、それらの間の何らかの類似に基づいて適用する認知過程である。
類推 - Wikipedia

簡単に言うと、アナロジーとはイデアを異なる領域から借りることです。事物を抽象化することで構造的な類似点を見出し、それを検討対象となる事物に当てはめる取り組みとも言えます。

例えば、漫画を軸に何らかのビジネスを始めたいと考えたとしましょう。漫画以外の全く異なる世界からアイデアを借りられないか考えながら、ふと目の前の不動産広告に目を落とします。当たり前ですが、アパートを借りると毎月一定の家賃を支払わなければなりません。当然、家にどれだけ居たかということは問われません。そこで思いつくのです。漫画を「買う」から「定額読み放題」にすればいいんじゃないかと。これは賃貸というビジネスモデルを漫画ビジネスに適用するというアナロジーです。

実際は、類推元となる何らかのプロダクト・サービスを抽象化し、検討対象となるプロダクト・サービスに類推できるかどうかを検討していきます。上述の例では賃貸のビジネスモデルを抽象化し、「一定額払えば使い放題」という構造を漫画ビジネスに当てはめました。

次に、世間的に話題になっている、または自分自身が興味のあるプロダクト・サービスについて、それがユーザーにもたらす価値の仕組み(背景や情緒)に着目してアイデアをつくる方法について説明します。 これは、なぜ「つい買ってしまう」のか?~「人を動かす隠れた心理」の見つけ方~で紹介されていたアイデア発想法を筆者が勝手にカスタマイズしたものです。

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イデアの転用元となるテーマが海外旅行、転用先として国内旅行とVRとなっています。転用という言葉を用いているのは、完全な類推ではないためです。他からアイデアを借りて全く異なる世界に適用するという点は類推と同じですけどね。

ここでは、人口の減少が続く日本でも海外旅行者数は増えている(要出展)という事実をベースに、それに近い国内旅行と、アイデアの実現手段として用いたいと考えているVRを取り上げています。海外旅行が人々にもたらす感情(情緒)とその背景、情緒をもたらすトリガーとなる事柄について整理し、転用先の国内旅行とVRでも同様に情報を整理してアイデアを導きます

おわりに

年度末ということもあり、下期に得た知識や経験を整理するという意味で記事にしてみました。

他にもアイデア発想法はあると思うのでいいのがあったら教えてくださいー。

交互作用と単純傾斜分析についてまとめてみた

はじめに

回帰分析シリーズ(?)第5弾です。

今回は、回帰分析で複数の説明変数の相乗効果を考慮するための方法について記事にまとめました。

過去記事

回帰分析における悩み

ある被説明変数に対して何が決定要因となっているかを明らかにする目的で重回帰分析を行ったとしましょう。

通常通りに分析結果の解釈を試みると、それぞれの説明変数の偏回帰係数について有意かどうかを判断します。

ここでよく気になるのが単一ではなく複数の説明変数の掛け合わせた結果が被説明変数に対して影響を及ぼしていないかということです。

例えば、何らかの病気の回復度を被説明変数とし複数の薬A. B. Cが説明変数として存在するものとします。このとき、薬A、薬Bそれぞれだけを服用しても意味はないが、薬Aと薬Bを同時に服用することで症状に対する効果があるかどうかを検証したいというケースもあるはずです。

このようなときに考慮すべき事項が交互作用です。

交互作用とは

統計WEBには以下のような説明があります。

交互作用は2つの因子が組み合わせることで初めて現れる相乗効果のことです。「肥料の量×土の種類」の場合、肥料の量と土の種類が相互に影響を及ぼし合っていることを表します。また、交互作用による効果のことを「交互作用効果」といいます。
出所:30-4. 交互作用とは | 統計学の時間 | 統計WEB, 太字は筆者による

交互作用が存在する場合、単一の説明変数では有意とならなかった場合でも、複数の説明変数で見ると有意になる場合があります。交互作用の検討を怠れば、本来知ることのできた新しい発見を見逃すことになりかねません。

では重回帰分析において交互作用をいかにして取り込めばいいのでしょうか。

交互作用の分析への取り込み

まずは交互作用を適切な説明変数として表現する必要があります。

対象となる説明変数を掛け合わせた値(x1 × x2)を説明変数として採用すればよさそうです。しかし、そうしてしまうと元の説明変数と新たに生み出した説明変数との相関係数が高くなってしまい、多重共線性が生じる可能性が高くなります。(多重共線性については過去記事参照)

このような事態を避けるため、交互作用項(x1 × x2)に対して中心化を行います。

中心化

中心化とは、各説明変数から当該説明変数の平均値を引く操作のことです。

たとえば、x1の平均値が3の場合、あるレコードのx1の値が1であれば1-3=-2, 4であれば4-3=1が中心化された値となります。

この操作を交互作用の検討対象となる説明変数(x1, x2)および交互作用項(x1 × x2)に対して行います。

交互作用項を含めた分析

あとは、中心化した説明変数(x1, x2)と中心化した交互作用項(x1 × x2)を使い、通常通りに重回帰分析を行います。

交互作用項が有意になっていれば、x1とx2の組合せが被説明変数に対して影響があった(=偏回帰係数が0ではなかった)と判断することができます

単純傾斜分析

交互作用の分析に関連する分析として単純傾斜分析というものがあります。

単純傾斜分析では、特定の説明変数がある傾向をもったときの被説明変数への有意性を分析します。

単純傾斜の検討対象をx1とすると、以下の2パターンで重回帰分析を行うことになります。なお、x1を中心化した値をx1_cと示すものとします。

  • x1_cからx1_cの標準偏差を引いた値(x1_c')と、その値を踏まえた交互作用項(x1_c' × x2_c)を使って同様に重回帰分析する
  • x1_cからx1_cの標準偏差を足した値(x1_c')と、その値を踏まえた交互作用項(x1_c' × x2_c)を使って同様に重回帰分析する

この分析では、標準偏差による操作を行った説明変数(x1)ではなく他方(x2)の説明変数について、被説明変数に対する偏回帰係数とその有意性を明らかにします。操作を行ったx1に着目した分析ではないので注意が必要です。

上記2パターンで重回帰分析を行うことで、x1がある傾向にある状態(1SD大きい/1SD小さい)において、x2の値が被説明変数に対していかなる影響を持つかを判断することができます。その判断についても通常通り偏回帰係数とその有意性で判断するため、上述のケースではx2の偏回帰係数とその有意性を見ることになります。

たとえば、+!SDでは有意となったが-1SDでは有意とならなかった場合、

x1が高い場合はx2によって被説明変数に影響をもたらすが、x1が低い場合はx2によって被説明変数に影響を及ぼしづらいと判断することができるのです。

具体的な考え方については以下の資料を参照してみてください。ブログのレベルじゃないくらいに詳しく書かれています。 tomsekiguchi.hatenablog.com 以下のp.30-1も非常に参考になりました。 http://cogpsy.educ.kyoto-u.ac.jp/personal/Kusumi/datasem17/lee1.pdf

おわりに

この記事を読んで交互作用や単純傾斜分析について少しでも理解が深まったのであれば幸いです。

参考資料

重回帰分析で交互作用効果 回帰分析による交互作用の検証 http://cogpsy.educ.kyoto-u.ac.jp/personal/Kusumi/datasem13/shinya2.pdf http://cogpsy.educ.kyoto-u.ac.jp/personal/Kusumi/datasem17/lee1.pdf http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/hijiyama-u/file/4876/20140122095555/hjt4307.pdf

ナッジとは何か

ナッジとは何か。その謎を解明すべく我々はアマゾ...

ナッジの定義

ナッジの本家であるリチャード・セイラーの定義を引用します。

A nudge, as we will use the term, is any aspect of the choice architecture that alters people’s behavior in a predictable way without forbidding any options or significantly changing their economic incentives. To count as a mere nudge, the intervention must be easy and cheap to avoid.
出所:Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth and Happiness

この定義を解釈するためには"choice architecture(選択アーキテクチャ)"を理解する必要があります。

選択者の自由意思にまったく(あるいはほとんど)影響を与えることなく、それでいて合理的な判断へと導くための制御あるいは提案の枠組み
出所:実践 行動経済学

人間の無意識的な意思決定や行動に着目し、望ましい状態を実現させるように設計された仕組みを概念的に示したものが"選択アーキテクチャ"で、その仕組みを用いた施策がナッジです。

自由意思に影響を与えることなく一定の判断を促す点が重要なので、特定の商品に関する単なるプロモーションはナッジとは言えません。

個人的な感覚だと、人の行動を操る具体的な施策をナッジ、人の行動を操るための設計された"選ばせ方"とその考え方を選択アーキテクチャと言うことが多いように感じます。

選択アーキテクチャの原理

良い選択を生み出すための選択アーキテクチャの原理を「NUDGES」と言います。

iNcentivesって無理やり感がすごい...。

原理 説明
iNcentives 価格やコストに関する誘因があること
Understand mappings 選択肢とそれを選択したことにより生じる結果について容易に理解できること
Defaults バイアスや選択への負荷を軽減する適切なデフォルトの選択肢を設定すること
Give feedback 選択とそれにより生じる結果についてフィードバックがあること
Expect error 人々の誤りを予想し、許容するための対策を講じること
Structure complex choices 複雑な選択を構造化しシンプルにすること

Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth and Happiness、及びBehavioral Economics (Routledge Advanced Texts in Economics and Finance)を筆者が解釈し作成

従来型の経済学では「iNcentives」のみに着目して"人を動かす"ための施策が設計されていましたが、 行動経済学では人の心理的要素を考慮したうえで人々の意思決定や行動を変えようとしています。

ナッジの特質

引用した定義にもあるように、行動変化を促すにあたり、一定の選択を明示的に禁じることなく、また明示的に経済的インセンティブを変えないことがナッジの本質です。

この点は、ナッジが経済政策の文脈でよく取り上げられる理由の一つでもあります。つまり、従来の経済政策は補助金や減税など経済的インセンティブを主軸にしていたため、簡単にいうと「お金がかかる」わけです。

一方でナッジは、経済的インセンティブに依存せずに行動変化をもたらすことができるため、低い費用で高い成果を生み出すことができます。

ナッジに関する議論

文献を調査する中で共通して議論の対象となっていたのは以下の二つです。

リバタリアンパターナリズムへの批判

リバタリアンパターナリズム」の意味は以下の通り。

意思決定には2種類ある。下から積み上げるボトムアップ型か、上から決めるトップダウン型か。同じように、政策主張にも2種類ある。個人の選択の自由を重視するリバタリアン自由主義)と、為政者が個人の選択の自由を制限してもよいとするパターナリズム(温情主義)である。ka
選択の自由を重視する近代経済学者の多くは、過剰な干渉にもつながりかねないパターナリズムには疑問を呈する。近年、限定合理性という観点から、基本的には選択の自由を尊重しながら、場合によっては選択のデフォルト(初期値)に介入することが許容されるという新しい立場、「リバタリアンパターナリズムが、キャス・サンステイン/ハーバード大学ロースクール教授たちによって提唱されている(その有力な同盟者が、2017年ノーベル経済学賞受賞者リチャード・セイラーシカゴ大学ビジネススクール教授である)。
出所:行動経済学を読む 第6回(最終回) リバタリアン・パターナリズムが世界を変える

一見すると矛盾する二つの概念ですが、この相対する概念を実現する手段としてナッジが有効であると例の二人(Thaler and Sustein)は主張しています。

ただ、実際に「ナッジ」と名乗る政策の中には人々の自由意志を阻害するまでに誘導的なものもあります。

例えば、タバコの有毒性を理解させ、購入を控えさせるためにデザインされたグロテスクなタバコのパッケージは、誘導の意図は明らかであり人々の意思決定に直接的に影響を及ぼしています。

リベラリズムを語るならばナッジの内容は価値中立的であるべきだが、実情としては必ずしもそうなっていないのです。

これは前述のナッジの特質と関連しており、ナッジがナッジたるには自由意志が確保された選択アーキテクチャが必須であり、そうでないものはもはやナッジとは言えません。

以下、この議論に関する参考資料です。
When Nudge Comes to Shove 行動に影響を与える選択フレーミング

認知バイアスへの懸念

カーネマンによると、人の意思決定は「直感のシステム1」と「熟考のシステム2」に大別されます。

ナッジがシステム1によるバイアスを設計したものであった場合、システム2によって"予期せぬ"結果になることが懸念されます。

臓器提供のオプトイン/アウトの話がナッジの例としてよくあげられますが、これはどちらかというとシステム1の性質を利用したナッジになっています。

つまり、デフォルトの選択肢が臓器提供"する"という設定であれば、中立的な立場の人々はわざわざ臓器提供を"しない"という選択肢を選ばないことを期待したナッジです。

ただ、ナッジの一例として紹介されたり、政府が誘導的な施策をとっていることが認知されたりする中で、人々がより慎重になり、システム2の思考で深く考え、結果的にデフォルトの選択肢を拒否することが多くなる可能性もあります。

以下、この議論に関する参考資料です。
情報を用いた誘導への一視座

参考文献・資料