SIerはいかにして滅びるか
「SIerはオワコン」、「時代は内製化。SIerは消滅する。」なんて言葉をネット上でよく見かけます。
SIerが嫌われ者なのは重々承知していますが、果たして本当にSIerは滅びるのでしょうか。仮に滅びるとして、どのような因果をたどって消滅するのでしょうか。
その謎を探るべく我々はア...
SIer消滅論者の意見
SIerは今後消滅する、あるいは衰退すると主張している方々をここではSIer消滅論者と呼ぶことにします。
まずは彼らの意見に耳を傾けてみましょう。
「2025 年、従来型のSIer は滅びると考えています」
(中略)
「まず『詳細に書かれた仕様をコード化するだけのプログラマー』はいなくなるだろうと思います。また、『OutSystems』(筆者注:ローコード開発プラットフォーム) を使えば一人でもシステムを開発できてしまうので、単純に工数の負担を売りにしていたようなSIerの需要はなくなるのではないかと感じています」(松岡氏)
出所:「2025 年、いままでのSIerは滅びる!」迫り来るIT革命を生き延びるために身に付けなければいけない、エンジニアにとっての“付加価値”とは? - エンジニアtype | 転職type
ノーコード・ローコード開発によって従来より容易に、なおかつ少ない工数でシステムを実装できるという主張です。 ベンダー企業に頼らなくともユーザー企業内で開発が完結するため、SIerにわざわざ頼む必要はないという論理ですね。
開発の仕事を外部に委託する場合の一番のネックは、コミュニケーションです。これについてはどんなに密に連絡を取ってくれる外注先であっても、内製する場合と比べるとコミュニケーションがとりにくくなることは避けられません。
(中略)
非効率な仕組みしか提供できないSI企業に発注するくらいなら、自社で効率よくシステムを開発できる体制を作ることも検討すべきです。システムを内製するということは、雇用のリスクをとるということですが、ITシステムが極めて重要となった今の時代は、エンジニアに任せられる仕事はいくらでもあるはずです。
そうなるともはやSI企業にシステムを発注する意味はなくなります。そこにお金をかけるくらいなら自社でエンジニアを雇用してシステムを内製することを検討すべきです。
この方は、対応スピードが業務的に求められるような場合にコミュニケーションロスによる対応スピード低下を特に懸念されているようです。
そのような外部委託による弊害を防ぐためにも自社でエンジニアを雇用し内製化すべきであると主張されています。
運用のスペシャリストがその職人技を駆使して、運用の現場で起きる様々なインシデントに臨機応変に対応し、システムの安定稼働を維持してきました。
それら専門ノウハウが、クラウド・サービスやアプライアンスに組み込まれ、誰もが最高のノウハウを容易に利用できる時代になろうとしています。
これまでは、これらはSIerの仕事であり、その対価が収益の源泉でした。それがサービスとして、あるいは製品として安い費用で利用できるようになるのです。
出所:SIと運用が消える! - ベテランIT営業が教える「正しいITの使い方、営業の使い方」 - ZDNet Japan
クラウドサービスの高度化に伴い、インフラのコード化や運用自動化がより簡単に実現できるため、これまでSIerが担っていた役割がそれらに取って替えられるという話です。
今後は、ユーザーが自ら業務に必要なアプリケーションを開発する「シチズンデベロッパー(一般人開発者)」が拡大しつつあります。シチズンデベロッパーが台頭してくるとSIの形も大きく影響を受けるでしょう。
(中略)
新たな業務ニーズに即応しなければならない場合、従来型の開発に頼る情報システム部門に依頼しても「時間がかかりすぎる」と不満をこぼすことは少なくありません。そのような需要に、高い開発生産性を誇るツールを駆使し、ユーザーが短期間でアプリケーションを開発しようことは今後どんどん増えてゆくでしょう。
出所:シチズンデベロッパーのうねりがSIerを駆逐する!?:後藤晃がIT業界を斬る~Take away~:オルタナティブ・ブログ
ここでもノーコード・ローコードの話が出てきています。SIerに頼まなくても自分たちで実装できます系の論理ですね。
まとめると、ツールやサービスの進化に伴い、これまで多大な工数をかけなければならなかったアプリ開発やインフラ構築がより少ない労力で実現できるようになり、自社内で完結できる(ゆえにSIerは不要)という論理のようです。
コミュニケーションに関する問題点を指摘する記事もありましたが、内製化すべしという結論は同じです。
つまり、内製化で何とかなるからSIerいらないよ!!ってわけですね。よくわかりました。
SIer壊滅論に対する疑問
工数を確保してひたすらスクラッチで作り込むという非本質的な作業はなくなる、あるいは減少するという主張は間違いなさそうですし、私もその認識です。
いまや、業務に特化した多様なSaaSがあふれ、アプリ・インフラ面でもさまざまなSaaS/PaaS/IaaSがサービス提供されているなかで、過去10, 20年続けてきたビジネススタイルは今後通用しないと考えます。
一方で、仮に企業の内製化が進んでいったとして、SIerが不要になり消滅するという論理にはいささか懐疑的です。
そもそも内製できる人材を確保できるのか問題
以前書いた記事でも言及していますが、IT人材の需給バランスは10年ほど前に崩れ始め、年々人材不足が悪化しています。
確かに、簡単なWebアプリの実装や仮想サーバの構築は社内で簡単に行えるかもしれません。
しかし、実業務を抱えながらユーザー部門が実装することは現実的に厳しいこと、ガバナンスの実現のためには結局情報システム部門による統制・支援が必要となることから、情報システム部門が重要な役割を担うことになります。
各企業がIT人材を求める中、優秀な人材を雇う、あるいは雇い続けることは容易ではないはずです。
優秀なIT人材を自社で抱え、内製化するというのは確かに合理的ですが、情報システム部門がコストセンターである以上、優秀な人材を何人も雇い続けることはやはり現実的ではないように思います。
全体最適化できるのか問題
仮にエンドユーザーによって個別のアプリを開発できるとしましょう。
そこに待つのは個別最適化によるサイロ化。
個別のシステムだけ見ると合理的に見えても、企業全体で見たときに不合理になる危険性をはらんでいます。これも前述の通り、十分なガバナンスが必要であり、全体最適やガバナンスの視点を持ったITエンジニアが必要になります。
また、特定のSaaSや特定の技術・方法論であれば、ある程度は自社の人材や特定の外部企業との連携でうまくいくように思えますが、これまで使ったことのない技術の導入や組織全体の業務、システムアーキテクチャを加味した筋のよいロードマップ、システム像を導き出すのはなかなか簡単ではありません。
これも結局は人材の問題と同様ですが、全体最適の視点で考えられるITエンジニアを組織内に常時十分なリソースで確保するのは難しそうです。
今後、企業内部から顧客接点まであらゆる部分がデジタル化・高度化されていくからこそ、真の意味でのSystems "Integrator"が求められるはずです。このような状況下では、複数の企業に対して多種多様なシステム構築を経験したSIerが活躍できる余地は十分にあります。
というわけで、内製化と言ってもいろいろ問題はありそうです。一方でSIerも、従来のビジネスが縮小することが明らかな今、どのようなサービスを提供し生き残っていけばよいのでしょうか。
この点について近日中に書いていこうと思います。
※2020/12/26追記
私のモチベーションがどこかへ消えてしまったので後半の執筆予定はなくなりました!!!モチベーションが帰ってきたら書きます。